クライハート
α/近江ルート

概要

───そこは、喰らいあう者たちの戦場。
L市に住む高校生・近江有は、修学旅行先で謎の存在に襲われたことを切欠に、バイサズオーヴァードとして目覚める。
同じくバイサズとなったクラスメイトとの戦闘を通して自身の危険性を自覚した有は、日常を離れる覚悟を決め、バイサズのみで構成される特別部隊、B.I.N.D.S.“吊られた男”隊に配属される。
“人を食う”ことでしか自我を維持できなくなった有は、バイサズ同士が描く殺し合いの螺旋の只中で、人間として生きる術を追い求めていく。

登場キャラクター

UGN

近江 有、正義マン、永山 栄、天野 美津、ファーレンハイト
鷺崎 朱茜、降旗 佳人、坂波 靜香

FH

マザー・オブ・オール、フォーゴットン、夜星 百合、狩野
アナザア、東昇 蒼空、“電子制御”

その他
甘狐 紺(、ネビュラ)、天園 晴人

コンセプト

怪物性と向き合うこと


各話プロット

一話

ボス:近江のクラスメイト(中丘)
登場:アナザア(+バイサズセルメンバー)
中盤にクラスメイト(少女/遠見)に襲われ捕食を受け、覚醒/変身して戦闘一度。
近江、日常を離れる決心をする。
バイサズセルが校内でのバトルロイヤルを教唆、観測していた痕跡。

二話

ボス:マザー
登場:電子制御
新興宗教と絡んで人が消えているとの手がかりから潜入調査。
大人組と学生組に分かれて別調査。
天野、調査の過程でマザーに反発しながら取り込まれかかる。
近江、「自分が喰うこと」で大勢が養われる環境を設けるマザーを倒すべきか誘惑される。
「誰かが喰われること」を看過は出来ない、という答え。
胎内領域を無限に拡張しようとするマザーを撃破。
マザー、ファーレンハイトにβにまつわる一言を遺して崩壊。
電子制御、マザーを情報面から守ると共に、噂を流し、信者を増やす。
ただし同時にUGNの目に微かに触れるよう状況を整えてもいた。

三話

ボス:夜星、一川
登場:ロット2-2“肉の樹”
事件の端々に見え隠れするバイサズセルの気配。
FHサイドバイサズの事件を辿る内、海外からの人身売買の流れが日本にも通じていることが判明。
“バイサズのための店”の存在が疑われるC市へと移り調査する面々、近江は少女を連れた夜星と名乗る女性と偶然接触する。
「あなたは食べることに何を見出しますか?」
踏み込んだ拠点では戦闘になり、制圧には成功するが、夜星、一川は捕まらず。
そもそもこの事件の端緒自体、他にも複数存在するルートのうち、一つを餌に使い、対抗派閥を巻き込みUGNに潰させること、そして永山隊を潰す目的のために一川の手によって仕組まれたものだった。
(石間ルートにおける尻尾切りの一環でもあった)
UGNは多くの捕食に難を抱えたバイサズの保護、そして行方知れずの店客捜索に苦しむことになる。
近江は結晶化したバイサズの遺体を捕食することに一層複雑な思いを持つようになる。
「食べるものまでそんな物では,すぐに心まで獣になってしまいますよ」
「……その上で。もしそれでも綺麗事を言うのであれば、“流星”には注意することですね」
「このくらいは良いでしょう。どうせ、貴方のところのお喋りが派手に騒ぐだろうことは知れていますから」
“肉の樹”は自らの生命を果実に吸い取られる運命にあり、助けることは非常に難しい。
処分を阻止すれば保護することは可能だが、殆どの場合、手段を尽くしても衰弱し、死亡してしまう。

四話 ZAテロ防衛戦(共通)

ボス:テロリストバイサズ1
登場:バイサズセルチーム、αデッドコピー0
夜星の残したキーワードから、未曾有のテロが計画されていることを推測したUGNサイドは、複数隊を動員してその防止に奔走する。
近江、鷺崎の指導によって精神の均衡をやや取り戻す。
「自分を否定しないこと」、獣性を受け入れるという発想を持ち始める。
永山隊は降旗との連携で情報収集、敵拠点候補の一つに踏み込み、そこでテロリストバイサズ、護衛に付いていたαデッドコピー0と接触、圧倒される。
デッドコピーは撤退するが、テロリストバイサズを逃がしてしまう。
氷室・友氏隊が電子戦の末に割り出した爆弾の設置場所へと向かい、合流。
永山隊はテロリスト1の撃破を担う。
なお、ここでαデッドコピー0より“大狩り”の情報を得る。

五話 天園事件

ボス:天園晴人
ZAテロを乗り越えた永山隊が直面する次の事件。
凄惨なはずの事件記録、現場に立ち会っても湧き上がることがない人間らしい感情、何を考え、どう行動したか、犯人の思考が分かってしまう近江。
自身の鏡像のような天園と戦う中で、近江は再びの暴走を喫してしまう。
「キミだってさぁ、分かってるんだろ?キミとボクはもうちゃんと人間なんだよ。ほんのちょっとオモシロいだけのね」
「人間は人間以外の何にもなれない。さぁ、見せてくれよ。キミの本当の人間らしさを!!」
この事件で天園を撃破することは出来ないが、天園のアジトの一つを放棄させ、ルールに拘る天園への警戒網をより適切に広げることに成功する。

EX回 Null Void迎撃戦(共通)

突如として出現し、一夜の内に数十人に及ぶバイサズを狩り殺した怪物・Null Void。
バイサズのそれを含むあらゆる攻撃が減衰され、驚異的な勢いで回復・収奪を実行するそれに対し、有効とされる唯一の手段は「βの因子」を打ち込み、「αの因子」を叩き付ける隙を作り出すこと。
度重なる捕食を繰り返し、出動した防衛隊の装備をも取り込んで存在規模を増すvoidに、対策部隊は連携しての攻撃作戦を計画する。
永山・鷺崎合同隊の役目は、友氏隊が突き崩す守りの間隙を突き、voidを殺すこと。
「俺が行きます。誰かが、あの人を殺さなきゃいけないなら……。
 俺が、あの人を殺したい」
バイサズを殺すバイサズ。滅びるべきとする死の断告に共鳴しながらも、近江は雄叫びと苦悶の叫びが満ちるケダモノの領域を駆け抜ける。

六話 バイサズセル襲撃(共通)

最終戦1。三話で去り際に夜星が残した言葉の含意が明らかにならないまま、本格的な各種流通路の活発化を確認するUGN。
やがて四話で宣言された通りの“大狩り”が開始され、UGNとバイサズセルの全面抗争が始まる。
日本各地が怪物たちの戦場と化していく中、石間隊からもたらされた情報により本拠地が判明。
首魁であるバイサズボスを確保し、“大狩り”を終結させるため、再び各隊連携しての最後の戦いが始まる。
「実につまらない結論に辿りつくなぁ近江くん。仕方ないけど、キミはここで収穫だ」
“つまらない”人間として天園に伍してみせ、天園の撤退条件を満たすことが目的となる。
バイサズボスはセル拠点の襲撃がなされた時点で秘密裏にセルを放棄して離脱、ネビュラ、αデッドコピー0と共に別拠点へと向かう。

七話 α・バイサズボス撃墜戦(共通)

最終戦2。
ネビュラと敵対し、プランを破壊するネビュラ・バイサズボスの行動に対抗する甘狐から、情報提供と助力を受け、三隊はそれぞれに別れ最後の作戦を実行することになる。
“流星”――巨大な因子爆弾として弾頭に封じられたαを討伐する友氏隊、バイサズボス・ネビュラを撃破し、弾頭発射の阻止を目指す永山・氷室隊。
放出されたαデッドコピー量産ナンバーとの戦闘が各地で始まる中、永山隊はバイサズボス・αデッドコピー0との戦いに挑む。
「『αの因子』は互いを奪い合う。その果てに生き残った者だけが何かを選ぶ権利を持つ」
「さあ、殺し合おう。この地上における真のαが誰かを決めるために」
デッドコピー0との戦闘、バイサズボスとの戦闘を経て勝利すれば条件クリアとなる。


切片(プロット生成のための材料本文)


俺が、漁られている音がする。
内臓のかき回される音。引きずり出されて口の中に収められる音。
咀嚼の音、嚥下の音。恍惚と漏れる吐息。突き立てられる牙。
それは───、
《アア》
何処か遠くにある俺の、もう一つの心臓が脈打つ。
それは───、
《アア》
俺の中のそれを閉じ込めていた檻に、ヒビが入る音がする。
「……くれ……」
「?」
「に、げて……」
「近江くん?まだ生きて、」
「に……」
それが開く。俺、という存在の外殻が壊れ落ちる。
何かが、出てくる。俺の中から、何かが───、
───俺の中の、俺が。
ご、と、音が遅れて聞こえた。
人間のものではなくなった、鋼のように硬化した遠海さんの肋骨が、軋みを上げながら割断される音だった。
馬乗りの姿勢で俺を貪っていた影が消し飛ぶ。壁面への激しい衝突音は、さながら車両の激突のようで。
「Arg……」
声が漏れる。最悪の、胸が空くような心地がした。
巻き戻されるように腑が復元され、四肢に力が戻るのが分かる。
心臓から巡る感覚/血液のようなものが、俺の身体を覆っていくのが分かる。
覆う?違う、
「Argra」
これは露呈だ。押し込められていたものの表沙汰だ。
そして宣言だ。“俺は食われる側ではなく、”
「Arrrrrrrrrgraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
“食い殺す側だ”と。
「うっ……!?」
不意の痛手から立ち直り、こちらを見る獲物の瞳が警戒と恐れの色を見せる。
《おそい》
致命的に遅い。こいつは何も解っていない。
伝えるかわりに跳んでいた。教えるかわりに爪を立てていた。
四断。
両腕にいつの間にか生えそろっていた刃の牙で袈裟/袈裟/両腕を胴体ごと脊髄から切り離す。
右の蹴りで首を、続く左で腰から下を吹き飛ばす。
けど、腐っても“これ”だってケダモノだ。その程度壊されたぐらいで簡単に生を諦めたりしない。
それでも。
《おそい》
即座に五体間の連結を取り戻しながら伸ばされた腕、その爪に爪を合わせるようにして突き立て、見せつけるように五つに切り裂いて見せてやる。
《ぬるい》
吹き出す血を仮面の下で味わって感想を漏らす。
大して美味くもない。こんなつまらないモノに長々付き合う価値もない。
肋骨の隙間を縫って、彼女の最も温かい場所───心臓に両の指を突き立てる。
断末の危険を悟って、彼女が刃だらけの俺の両腕を掴み止めようとする。
《よわい》
腕に力が籠もる
「あっ、」
「Ah」
───やめてくれ。
やっと出たと思った声は、抑えきれない興奮を帯びた唸り声に変わっていた。
「Ahhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!」
凄烈な悲鳴を咆哮で覆い尽くしながら引き千切る。
形勢がひっくり返し、勝敗が決した。
再生し、立ち上がろうとする獣と、露わになった肉を貪り、貪り、喰い殺そうとする獣との、一方的で、絶望的で、これほど悦ばしいことのない僅かで長すぎる時間。
「やっ、やだっ、やだぁ、やだ、ぁ」
込み上げる血で塞がっていく喉から漏れる声を、耳が聞いている。
喉を通り過ぎていくものの感触を、肉が感じている。
溢れ出る温かい血のかぐわしさを、嗅覚が捉えている。
「Arga」
嗚咽が喜悦になる。悲鳴が咆哮に変わる。
やめてくれ、
「あっ、あぁ、あっ……」
やめてくれ、もう。
「が、ぐ、ぅ」
俺の身体で、喉で、腕で、爪で、
命を奪うのを、誰か、止めてくれ───!
『───やったろうじゃない』
声は背後から響いた。
それが天野美津という少女のものであったことを、俺は後に知ることになる。


「……私は、あんたの事認めてないからね。
能力もコントロールできないただのケダモノが、素質だけで生き残れるなんて思わないことね」


「どうしてあんなやつをうちの隊に入れるんですか?私があれを止めるのに手こずったからですか」
『そうじゃない』
いつも通りの、務めて穏やかな、少しだけ疲れた声で、永山は告げた。
『……彼の因子適合率は93.5、君の87を上回る危険な数値だ。
レネゲイドコントロールの習熟は勿論、暴走した時それを止められる人材が常に傍にいる必要がある』

「君は正義を知る必要があるね。だからこの少数精鋭隊たる正義隊に配属されたのだよ」
『……彼の表現はちょっと独特だけど、そういうことだ。一人足りないが、改めて自己紹介をさせてもらおう。
僕は永山……これから君と一緒に行動させてもらう仲間の一人だ。ようこそ、僕らのチームへ』
「私は正義マン!」
「……天野よ。天野美津。どのくらい生き延びられるか、精々見物させてもらうわ」

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