ロイスルート一話シーンプロット

飛び込んだその一歩は、日常(せかい)を変えてしまう一歩だった。

シーン1 光と掌(マスター)

雲一つない夜空を一人の少年が眺めている。
どうやって辿り着くかも分からない超高層ビルの屋上。
当然のように荒れ狂う風。はためくシャツの白は星明かりを反射する。
下界には光。しかしそれも、これほど高くまで来てしまえば十分には届かない。
「その昔、アダムとイヴが知恵の実を手にして楽園を追放された時、世界は暗闇に包まれていた」
「限られたものとなってしまった命を必死に抱えながら、彼らは生き抜き、これほどの繁栄を手に入れた」
眼下に広がる街並みは地平線の向こうまで広がる。
少年はそれを慈愛に満ちた眼差しで見下ろし、微笑む。
「光――なんて眩しさだ。今では月も霞むほどの夜灯りがこの星を包んでいる」
ビルの淵。穏やかに微笑んだまま吹き上げる風を受ける。視線が再び空へと向かう。
「或いは、そのせいなのかもしれないね。“君たち”がここへ引き寄せられたのは」
「次なる林檎の種は地に散り、ついに芽吹き始めた。口にした者たちは再び、ここが揺り籠の外であることを思い知らされる」
「人間たちはどうするだろう。「彼」は面白いことをやってくれそうだし、「彼女」もまた、一つの答えを出そうとしている」
「どちらのことも僕は好きだけれど……長く付き合ってきた身としては、人が持つもう一つの可能性も、できることなら見てみたい」
つと振り向く。視線が「こちら」に向かう。
「だから、キミに種を蒔かせてもらったんだ。ねえ、」
――――。
彼が君の名を呼ぶ。いつの間にか彼を見ていた君の名前を。
「キミはどこまで行けるだろう?力及ばぬ身で、数多の障害を越えて。
 その先で何を掴めるだろう。どれだけのものを、その小さな掌で」
「見守っているよ。ずっと、ずっと。君が、君の信じた光の下へ辿り着くその時まで。
 ――或いは、失墜して地に伏してしまう、その時まで」
少年の眼差しは依然として愛しげで、優しく。
しかし、激しい風に煽られて散り散りに吹き飛んでいく君をその場に留めようとはしない。
星を見るように、去って行く君の破片を最後まで見つめていた。
やがて飛ばされた君の意識は宙に向かう。
渦巻く風の最中、ふと放り出された嵐の目。静かに降り注ぐ月光と、それを取り巻く星々。
遠くにあるその輝きに奇妙な哀切、そして衝動を呼び起こされながら、君は手を伸ばす。
しかし君は鳥ではない。飛ぶことは出来ず、落ちていく。
戻っていく。自分が元いた場所へと。


シーン2 異変、異常の直中で(PC1)

事件に巻き込まれ、ワーディングに苦しみながら一般人を助け、代わりに致命傷を受け死亡する。
氷室隊とバイサズジャームとの戦闘中のこと。
登校中、激しい頭痛に襲われた石間は、「誰かに呼ばれている」という強い感覚を抱く。
連続する爆発音、壊音の発生源へと向かった先で、傷を負い倒れている人々と、
疾駆する異形の怪物・人間たちの戦いを目にする。
その光景に驚く暇もないまま、崩れかかった建物の下で意識を失った母子が横たわっているのを発見する。
痛みを堪え、何とか崩落の直前に母子を避難させることに成功するが……。


シーン3 激戦、溢れ落ちるもの、或いは(PC2)

市街地に突如として大量出現したバイサズジャーム、その数実に五体。
緊急出動した氷室隊は総出で交戦、西隅もまた前線に立ち一対複数の苦戦を強いられる。
ホワイトハンド(UGN救急部隊)は未だ到着せず。そもそも近づくこともままならない――激戦区。
「被害者の密集地から引き離すことを最優先だ!後衛は白兵隊の援護に集中、誤射は絶対に避けろ!」
削られる盾、突き殺してなお飢餓衝動のままに襲いかかってくる怪物たち。
それでも指示されたポイントまで引きつけようとギリギリの間合いで戦闘を続ける。
死者を一人でも増やすまいとして。薄氷を踏むようなもどかしい時間。けれど、もう少しで――、
《――緊急警告(エマージェンシー)、領域南西部に侵食反応0の人影1――一般人が戦場に立ち入ってる》
即座に更新される氷室の領域情報。今し方崩落した建物の噴煙の向こう。
傷付いた身体を修復するため、餌を求めたジャームが向かう。
取り付いている一匹を弾き飛ばし、救助に向かうが間に合わない。
目の前で胴体を貫かれる少年。遠目にも確信出来る心肺破裂、即死。
守れなかった。また、掌から命が一つ溢れ落ちていった。そう思った時。
――涼風。
急激な侵食上昇反応、通常のオーヴァードのそれを遙かに上回る変化。
どのバイサズも一度だけ発する最初の咆哮、誕生を告げるような強力な咆哮、“産声”。
吹き飛ばされるジャーム――現れたのは青の意匠、鳥に似た異形を露わにした、
《対象――バイサズオーヴァードへの変身を確認》
「くそ……何なんだ」
「でも……わかる。今、お前から感じたぞ」そして自分からも。激しい食欲。
「俺は餌になんかならない。他の誰だって同じだ……食わせてたまるか!」
チュートリアル戦闘に突入。氷室の取り仕切りのもと共闘し、全個体を無力化すればシーン終了。


シーン4 小さな覚醒者(PC3)

無事領域入りしたホワイトハンドの面々により被害者が回収される中、
変身が解け意識を失った石間のバイタルチェック。
ジャーム化せず、オーヴァードとして安定していることが確認されると、
そのまま専門対策部隊の拠点へと運ばれる。
目が覚めると光長、氷室両名による状況説明。
「あ。目が覚めましたね」
「こんにちは。それと、本当は多分、もうお互いの顔は見ていると思うのですが……はじめまして」
「深海ゆのです。本当は、他にもご紹介したい方たちがいらっしゃるんですけれど……。あ、織音さん」
「今、呼んでおいた。もうすぐ来る」
「ずっと看てくださってたのに、私が最初のご挨拶になってしまって。なんだかすみません」
「気にしない。……無事に目が覚めたのなら、それでいい」
「こちら、鎮野織音さんといって、あなたが眠ってらっしゃるあいだ、傍についててくださってたんです」
「余計な話はしなくていい。……名前」
「……俺の?」一瞬自分に言われたと分からなかった。
「意識確認」
「……石間誠司」
「指は何本に見える」
「……三本」
「問題なし。じゃあ」
「あ、織音さん」
「……行ってしまわれました。あの、素っ気ないように見えたかもしれないのですが、とても心配していらしたんですよ」
「あなたがこういうことになったのは自分のせいでもある、って」
「……えー、と。聞いてもいいかな」
「はい?」
「“こういうこと”っていうのは……?」
「ああ。すみません、そうでした。まだ何も、説明をしていないんでした」
正直、聞きたいことは沢山ある。
腕から伸びた管の先、点滴と呼ぶには、
余りにも血に近い……というかそのものの色をしている……袋の中身は、一体何なのか。
ここはどこなのか。自分は何をしてここにいるのか。
記憶が曖昧で思い出せない。というよりは、思い出してはいけないことのような。
「それについては私から説明しよう」
基本音量が通常より二回りほど大きそうな、巨躯の男と、
「筋道の立った説明が必要だからな。……少なくとも、統括の言葉に私が補足をした方が話が早い」
『お疲れ様です』
タイトなロングスカート、性別からいえば長身の部類に入るだろう女性、
両手で、テレビでたまに見るカンペのようなスケッチブックを持った小柄の女性。
三人のうち、小柄な女性は男に少し押し出され気味の位置に、少々居心地が悪そうな体勢で立っている。
「隊長」
「ご苦労だった、深海。あとは我々が引き継ぐ。待機に戻ってくれ」
「分かりました。それでは石間さん、また後で」
巨躯の男は金剛寺光長と名乗り、以下のように説明する。

「えー、少し待ってくれ思い出すのに少しかかる…よし、良いぞ」
「さて、まずは自己紹介だな。私は金剛寺 光長、UGNバイサズ対策部隊の統括…詰まる所責任者を務めている。」
「そう、バイサズ。君が目覚めた力であり、君が直面した怪物たちの持つ力でもあり……この表現はあまり好きではないのだがある種の『症例』だ」
「あーすまん、脅したいわけじゃないんだ。君はざっくり言ってしまえば『大丈夫』な方になる。」

光長はまずそう言い切り、氷室と音無に補足されながら、石間に次のことを説明する。
・オーヴァードについて、ジャームについて、UGNとFHについて
・バイサズについて、その衝動の危険性について
・石間誠司というバイサズについて
そして、以下のように告げる。
「君の日常を守ると言った舌の根も乾かぬうちにこんなことを言いたくはないが……我々には手が足りていない」
「バイサズの力に多くの者が群がる中でUGNは確たる方針をいまだに決めかねている。結果として動員される人員は限定され、多くの無理を隊員に強いてなお事件に対して後手に回り続けているのが現状なのだ」
「不甲斐ない、責任者などと言いながら私は彼らの負担を軽減してやることもできていない」
「……聞いての通りこの部隊は無理と危険が満載だ、そのことを包み隠さず明かした上で頼みがある」
「烏滸がましい事だが、どうか…我々に力を貸してはくれないだろうか」
「世界を守るなどと大それたことを言うつもりはない。ただ誰かの紡いだ昨日を当たり前の明日に繋ぐ、そのために」
「強制はしない、出来るはずもない。だからもし君が断ったとしても気に病まないでくれ」
「君が日常を送る事、それもまた我々が繋ぎたい明日なのだ」
「急ぐ必要はない……いつか答えが出たらまたここに来てくれ」
「日常に帰るにせよ、我々と共に歩むにせよ。最大限の援助をさせてもらうと約束する!」
氷室は最後に、以下のように付け足す。
「統括の仰ったことが全てだ。すぐに結論を出す必要は勿論ない。……ただ、もし君が良ければだが」
「私の部下たちに一度会ってやってくれないか。皆、君に直接礼を言いたがっている」
「ああ、礼だ。光長統括も言っていたが……君の存在と助力に、我々は大いに感謝している」


シーン5 氷室隊(PC4)

輸血が済むと、体調は万全だと感じる。
PC1が望まなければそのまま帰ることも可能だが、石間は自分からも礼を言いたいと返答。
司令室に詰めていた人々のもとに案内される。
待っていたのは八人、年齢も性別も様々な統一感のない面々。
スーツを纏った男が一人。壁際、目を閉じている。
少女が一人。デスクの上で資料を広げ、真剣な面持ちでそれを見つめている。
少し離れて、歳が近そうな、穏やかな様子の長身の少年。
その傍でそわそわと落ち着かなげにしている小柄な少女。
同じく小柄で、こちらはチェアについてはいるが、手元がせわしなく携帯ゲームを操作している。同年齢の少女……少年?
隣のテーブルには更に幼い、小学生くらいと思しき少年。
傍にいる彼女には見覚えがある。ゆのと名乗った少女。
最後に織音――彼女自身はそう名乗りはしなかったが――はそのどこからも離れた位置で、
ヘッドホンを被り、デスクと一体化した端末を高速で操作していた。
中二階下り式の司令室。ガラス越しに見下ろしたその面々が、こちらに気付くまでは若干の間があった。
真っ先に気付いたのはスーツの男/資料を見つめる少女/続いて引っ切りなしに扉を仰いでいた少女/長身の少年。
視線/視線/「あっ!」/椅子がひっくり返らないようにそっと押さえる/時間差でこちらを見る少女or少年/小学生/ゆの/最後に織音。
石間、八人八様の注意を向けられてたじろぐ。
「あ、えーっと……」
「隊長!起きたんですね新しい人!」
椅子をがったん、と言わせながら身を乗り出す少女。
「伊緒、まだ。そうだって、決まった訳じゃない」椅子押さえたままの少年。
「ええー、でも順、バイサズで一緒に戦ってくれたのに」
「非常事態での対応だ。それとこれとは話が違う」
「前島さん、呼んで来ましょうか」
「放っておけば……?」
「弱そうで興味ないって言ってたしな」
「(ヘッドホンを片耳だけ外す)」
「……」
溜息を吐く氷室。
「深海、いい。席に着け。遠野もだ」
「はい!」
「騒がしくてすまない。先刻の君がどれだけ顔を覚えているかは解らないが、君に助けられた者たちだ」
「そりゃ言い過ぎじゃないっすかー?一人くらいいたっていなくたって俺の戦略で……むぐ」
やんわりと口元を塞ぐゆの、溜息をつく壁際の男。
「そんな事はないですよ。本当に、あと少しで決壊する寸前だったんですから」
「データから見ても、ゆのの言い分が正しいよ……明、全然だめ。あとそこの計算もまちがってる」
「……西隅」
総括しろ、とばかりに氷室が声を掛けたのは、奥のデスクで書類と向き合っていた少女。
歳は石間より幾つか上か。上級生――或いはまだ知らない場所、大学、に通っていそうな年頃の。
「無事に目が覚めたようで何よりです。こうしていらしているということは、処置も無事に済んだのですね」
「私たちはあの場で、人命救助とジャーム撃破の両方を遂行しなければならない状況にありました。
 あなたの助力は……そしてあなたが生き延びて下さったことは、私たちにとっては大きな救いになりました」
「私は西隅和葉といいます。石間誠司さん、ありがとうございました」
ゆのが同意するように柔らかい眼差しを送る。
渋々認めたらしい明と、少年、そして伊緒と呼ばれた少女がそれにならう。
「ねえ!ねえ!お礼に順が作ったお菓子とアイス食べていってよ!すごく美味しいんだよ!」
「いや、起き抜けにそれはちょっと重いんじゃないかな……?」
「アイスは至高。いつ食べても何と合わせてもおいしい」
「それはそれとして、勝手にあげるとかいうな。そんな安いものじゃない……。
 今回はまあいいけど。縁があったってことで、特別」
「冷凍庫解禁かよ!俺も食う俺も!」
「…………………………」
「あまり困らせるな。すまない、石間くん」
「……いや、やっぱり来てよかったです」
短い時間、でもはっきり覚えている。自分が怪物になって、怪物と戦った記憶。
人間のものではない掌、剥き出しになった何かを形だけ覆い隠したような仮面の感覚。
血の匂い。それに対して感じた“欲しい”という気持ち。
その俺の全部を見た人たちが、ここでこうして普通の人とそう大差なく扱ってくれる。
その事が、自分の中に重くわだかまっていた感情を取り除いてくれた。
「あの、俺がこうして寝込んでた時間と、事故のことは誤魔化してくれる、って、さっき」
「帰る前に、そのお菓子とアイスっていうやつ、貰ってってもいいですか?」
「……ああ。そのくらいは、ことのついでだ」
石間、氷室隊に歓迎され、あれこれ交流して帰る。
一つの答えのようなものと、それに伴う一つの気持ちを持って。


シーン6 さよなら日常、始まる非日常(PC1)

「あのさ、母さん」
「んー?なあに」
「俺がさ、例えば留学とか自分探しとかいって家から出ても、部屋そのままにしといてくれる?」
「いきなりよくわかんないこと言うわね。あんたの汚い部屋なんてちょっと片付けるだけでも骨なんだから、ほっとくに決まってるわよ」
「止めたりとかする?」
「何、行くの?」
「いや、そういう訳じゃないけど。もしもの話」
「そうねえ。まあ、親としちゃ普通に勉強して普通に進学して普通に就職して欲しいわね。
 ただあんた、昔っから自分で決めたことを言われてやめたことなんてないじゃない。
 だから仮にあんたがそんな事考え始めたんだったら、こう言うわね。
 “好きにすればいいけど、整理はしてきなさい。そんな暇もないんだったら、必ず、帰ってきて自分で部屋掃除しなさい”って」
「……そっか」
「はい、どうぞ。さっさとご飯食べて行ってきなさい、遅刻しないようにね」
「うん。行ってきます」
微かに感じる胸の疼き。試しに自分の指を噛んでみて、やっぱり駄目かと諦める。
「本当に構わないのか?」
ブロックひとつ、歩いて曲がった先で待っている車両。その前に立つ氷室。
後部座席、窓から覗く伊緒の顔。車内に藤巻、黄泉川。
「はい。俺、やっぱりこのまま“あの俺”から目を逸らして生きてくの、無理そうです。それに」
来たー!という顔でこっちを見てくれている伊緒とその後ろの藤巻を見て。
「多分、ここでならやっていけるって思ったから。……これから、よろしくお願いします」
「ようこそー!よろしくお願いします!誠司さん!」にゅっ
「うおっ!?」
「伊緒、近い、近い」ステイ。
黄泉川はいつも通りの仏頂面。
しばらくを施設で過ごさせてもらった時も、この人は徹頭徹尾何も言わなかった。ちょっと緊張。
すると、口を開く。
「お前は、まだ子供だ」
「出した答えが間違っていたと気付いたらいつでも訂正しろ。
 お前にはその権利がある。その選択は歓迎されてる。
 その事だけは、いつも心に留めておけ」
「……はい」
石間、海外留学プログラムに参加、という名目で日常から離れる。
同時に数少ないバイサズ戦力として、氷室隊に配属。
チルドレンと同じ寮に入り、訓練の日々が始まる。


シーン7 Training, Training, Training.(PC4)

その1、代替食訓練。
自分の家から持ってきたものを食べつつ、
UGNのバイサズ用流通網から取り寄せたものを試していく。
「モノを食べるって変な感じだなあ……」
ボロボロになったシューズ、表面加工が削れてみすぼらしくなったバット、
使い込んでやわやわになったミット、球技大会前、友達から貰ってシュート練習を毎日やったバスケットボール。
「最初は違和感があるでしょうけど……嗅覚と味覚で捉えるようにすると、その内慣れてきます」西隅の助言。
2、変身トリガー探し。
物ボケ大会を繰り広げたのち、
「……だめそうです。こうなると、人為的な形で身体に覚えさせた方が良さそうですね」
隊一気長なゆのの所見(ギブアップ)。
「レネゲイドコントロールの訓練と並行して、やっていきましょう」

というわけで3、変身訓練。
かかること実に二週間。その間に代替食捕食も慣れた。
「でき……たぁ……」ばったり
「あらあら」
「変身するだけで電池切れって、こいつ本当に大丈夫なの?」
隊内最年少・明の所感(ツッコミ)。
そして4、戦闘訓練。
「おめーほんとに使えんのか?バイサズだかなんだか知らないが隊長や西隅みたいな覇気が感じられねぇ。
 とりあえず一回やりやってみるか。ほらこっちこい」
結論。
「ぱっとしねえ!」
「パワーもスピードも半端。でもって何よりセンスがねえ。バイサズじゃなかったらお前どうにもなんねえぞ」
「基礎から叩き込むしかねえな。とにかく反復、反復、反復だ。ハヌマーンだしな、身体に覚えさせる。ついてこられっか?」
「はい……!」
「ぶっ倒れたまま即答する根性だけは認めてやらぁ」

そんなこんなで一月弱。
どうにかこうにか、バイサズとしても、隊員としても形になってきた中、
本格的な事件捜査の開始が宣言される。


シーン8 ブリーフィング

「アンダーグラウンドで拡大しつつある人肉売買、および戦力としてのバイサズの流通。
 両件に関わっていると見られる組織を摘発し、流通経路を潰すことが、今回の我々の目的だ」
「この件については以前より捜査を進めてきたが、ようやくその一端と見られる手がかりを掴んだ」
バイサズを擁するセルからの離脱希望者。
人肉食の悍ましさに耐えきれなくなったオーヴァードが、保護を求めて持ちかけてきた取引。
代価としてUGN側が得たもの――ダミー企業のリスト。
物流/人材派遣会社に擬態し、バイサズと人肉を運ぶ地下市場、“流通経路”の部分見取り図。
「まずはリストの裏を取ることから始める。その後、取引現場を押さえ、人員を確保。関係組織を洗い出す」
「黄泉川班は離反者からの聴取と裏取りを、西隅班はリスト企業周辺の情報のやり取りを監視しろ。
 こちらは人/物の買い手と、ダミーの裏で糸を引いている大元を遡る」
初めての実捜査。三人の先達と共に、石間はバイサズを巡る闇の中へ踏み入っていく。


シーン9 少年と可能性と(PC2)

本格的な捜査に入る前に、身についた技術の全てで西隅に腕前を確かめてもらうシーン。
氷室との連携試験でもある。指示管制に従って立体機動を駆使して障害物突破、助力を受けて西隅に一撃を与えられればクリア。
力不足ながらもバイサズとして一定のラインに辿り着いたことを示し、無事今回の事件から正式入隊となる。
「思ったよかちったぁ早かったな」
「もう一、二ヶ月はかかると思ってたぜ。最悪半年」
「身に染みて分かりました……」粛々と西隅にカウンターを決められて撃破された石間。
「まァ西隅(アレ)はそういうもんだ。比べたりはしねえで頑張れ」
「はい……」
「あ、こいつまた気絶した」何だかんだ潜った修羅場の数が違う明。

情報収集

・アンダーグラウンドの現状について
混沌としている。オーヴァードによるアンダーグラウンド侵食自体は以前からあったことだが、
バイサズの出現はその価値と嗜癖が独特の市場を生み出すに至った。
結果、大きな変化が起き、新興組織が台頭する一方で古参組織との衝突、世代交代が勃発。
攪拌された大鍋のごとく勢力図の変更が為されつつある。

・バイサズ市場について
バイサズの出現によって生み出された独特のアンダーグラウンド市場。
その内訳は大きく分けて二つあることがわかった。
1.兵器としてのバイサズをやり取りする市場
2.人肉の消費者としてのバイサズ(人身売買市場)

・兵器としてのバイサズ
オーヴァードに対する警戒は裏社会でも各地でなされているが、
“変身”によって潜伏体と攻撃体を切り替えることのできるバイサズは警戒のしようがなく、
強襲に向いた存在であることが大きな点。
また、“人肉食”という、残虐な示威行為に向いた特製を持つことも価値の一つとなっている。

・バイサズへの人肉供給 (人身売買)
バイサズとして覚醒した人間は誰しも人肉を求める欲求に抗えない。
戦闘員、またはジャームであれば尚更である。
この事実により人身売買市場が活発化している。
労働・臓器売却名目で非合法に国内入りした経済格差国の人間が食われるといった事例が既に多量存在している模様。
政府側も対応しているが、エフェクトを使用し隠蔽工作が行われた場合の手配はUGN側の尽力を持ってしても捕捉しきれるものではなく、
結果として多額の資金が動く新進市場となっている模様。

・「商品」の流通経路について
表面上、運輸企業や人材派遣企業で商品名・人材名を偽って流通していると思われる。
ダミー企業といっても、表面上健全な運営をしている企業に人員を混入させ、
通常のそれに隠れる形でもうけた特殊な集配場を経由する形で運搬していると見られ、腑分けが難しい。
何らかの絞り込み基準、見分けのための視点を獲得する方が効率的か。
情報を集めなければならない。

・経路調査
いわゆる虱潰し。この繰り返しの中で手がかりが出てくることを期待する。
恐らくバイサズ・人肉の提供が実行されたと思われる事件の痕跡を見つけ、
結果としてリストが偽物ではない根拠は得られたが、共通点を洗い出すにはキーが不足。
取引の事前予測を行うことは困難である。

・「商品」を扱う組織について
もう一つの重要な捜査視点。個人が散発的にこのネットワークを構築しているとは考えがたく、
全て、或いは多くの取引を差配し利益を吸い上げている大元が存在することが予想される。
問題は現在の混乱状況下における候補の絞り込みが難しいことである。
古株、新興、或いはそれらの連合。いずれにせよ、オーヴァード・ジャームを抱える集団であることは間違いない。
市場が成長しきり、隠蔽と流通、尻尾切りの体制が整いきる前に、流通網を潰さねばならない。

・符号「ウズメ」について
裏社会で「ウズメ」という言葉を知っていることを前提に、
人肉の購入ができるということが判明(UGN工作員の潜入調査によるもの)。
実購入経路の末端が分かったことから、情報の伝達経路を追跡、
次の取引が確実に行われると思われる場所の特定が完了した。
現場を押さえることで、少なくとも“餌”とされる人命と末端構成員の素性について情報を得ることが可能なはずである。


シーンEX 不可思議との邂逅

石間と紺が邂逅し、情報を得るシーン。
紺は石間を検分した後、情報を提供してくれる。
今回は背景組織を追う氷室隊に、謎を解くための手がかりとして「ウズメ」の符号を伝える。


シーン10 割り出された候補地(PC3)

全ての情報収集項目を開示した後の再ブリーフィングのシーン。
また各班の情報共有のシーンでもある。
流通経路上に「ウズメ」の符号を用いた取引情報あり。
現場を押さえるために、全隊での出撃が決定。
「いいか。今回の手前の仕事は補助(フリー)。バックアップの更に後ろっ尻だ。
 初戦のことは忘れろ。今回の状況は清潔じゃねえんだ。動けなくても気に病むこたねえし、それが普通だ。
 ショックを感じたら制御に徹して引っ込め、それが第一。そいつを頭に叩き込んだ上で、出来ることをやりゃいい」
師匠・前島の助言。
黄泉川の沈黙。始めに口にしたことを繰り返さない。何も言わないことで、暗黙裏に彼の言葉は反響する。
「一緒に頑張りましょうね!景気づけに一発リザレクトいっときます?」
「伊緒、侵食率の無駄使い、だめ。石間、ごめんね」
同輩・伊緒/順の激励。
「初冬との同調も問題ないな。有事のバックアップに際し、必要な指示は私が行う。
 試験の時と同じように、判断負荷を私に委ねろ。その上で、どうなったとしても責任は私が取る」
氷室の指揮命令――そして宣言。
「黄泉川、前島、初冬と、藤巻・遠野で二交代。先行して48時間前から監視を始めろ。
 他の人員は24時間前に集合、配置を確認の後現地へ向かう」


シーン11 Messenger in the dark(マスター)

再び星の光と街の光が意識される中での夢。
感覚の広がり――或いは自分の希薄化、膨張。星の外から星を見るような。
閉所にいても、世界を知覚している。世界の一部として居場所を認識している。
それは自分自身をその場にある矮小なものの一つとして痛感することと同義である。
そんな規格外の理解――正気をもぎ取られそうな世界把握の在り方を平然と内包して、青年がそこにいる。
彼がそこにいることで何とか自分が繋ぎとめられていると言ってもよかった。
自分は彼の付属物だ。この夢の中にあっては。
その彼が薄暗闇の中で声をかける。誰かに向かって、問わず語りのように。
「神とは、実際のところ面白い概念だ。人は己の思考の発達から逆説的に神の存在を確信し、
 様々な文化を積み上げてきた。神的存在の確証を前提として理性を発見し、知性を育み、道徳を産み落とした。
 そしてその裏で、その光に比肩するだけの暗い闇をも凝らせてきた」
返答の代わりに黒く濁った血の棘。青年の美しい白い肌を貫く僅か手前で止まっている。
掠れて錆び切った声。調律を失ったヴァイオリンが軋むような、
かつては美しかったのだろう、今は名残を残すばかりの、荒廃を滲ませる声が、怒りを露わにして発される。
「儂の前で神の話をするなと言ったぞ。貴様の冗長な戯れ言の産物とて変わりはないわ――虫唾が走る」
「ああ、悪かったよ。ただ、巡り合わせというのは面白いものだと思ってね」
「用件を言え」
嗄れた声が言った。反響もせず、厚く貼られた豪奢な室内張りに吸い込まれる。
「君が“運搬”に使っている教会が嗅ぎつけられたよ。近く、事が起こるだろう」
「フン、どこぞの木っ葉が臆病風を吹かせたか」
手が机上の受話器に向かい、幾ばくかの指示が系統に向け発せられる。
“彼女”の翼は出来事と組織全てを覆っている。血と爪と恐怖とで。
不要なものは全てを剥ぎ取った上で切り捨て、そうでないものは外敵を叩き潰すことで維持する。
ずっと続けて来たこと――まだ彼女という存在が矮小で後ろ盾を持たず、
寄生と操作以外の手管を持たなかった頃から一貫している方針。
「ああ、血で汚してやるさね。ありったけの血と肉で。教会(あれ)はそのためにこそある場所だ」
既に青年の姿は消えている。いつでもそのようにして現れ、そのようにして消える。
そしてその故に、夢を見ている自分も薄れつつある。
浮かぶイメージ――液体の内に浮かぶ何かのシルエット。
それは、拘束され、鞘から出でる時を待つ刃のような、或いは全てを拒絶する鎧のような、
その両者が混淆した――。


シーン12 物証と危険(PC4)

怖気を催すような夢の感覚が消えていく中、時計のアラームで目が覚める。
「おはようございます。行きましょうか」先にロビーで待機していたゆのと合流、向かう。
「和葉さんは準備訓練を終えてから来るそうです。いつもそんな風なんですよ」
普段と同じような調子で喋るゆの。
「ゆのは……恐いとか思ったりしないのか?」
起床時の感覚を思い出し、尋ねる石間。
「思いますよ。もっとも、私は実際にはひとではないですから、
 ひとの普通の「恐い」とは違うかもしれないですけど」
「でも、その恐さと戦うことで、得られる何かがあると感じるんです。
 少なくとも、氷室隊長は私たちにそう信じさせてくれます」
伊緒ちゃんもきっと同じことを言います。藤巻くんも。
明くんは正直に言うかどうか分からないですけれど。
「揃ったな」
取引の予定場所――市街中心部から離れた教会へ向かうと、
元気いっぱいの伊緒と朴訥の藤巻、いつも通りの二人が出迎え。
「今のところ現場に異常なしです!」
《監視してる情報網にも変化なし――予定通り、運び込まれそう》
迎える深夜。不似合いな時間に訪れるトラック、搬出される“荷物”――生きた人間。
神父が現れ、不安げな顔をした老若男女を迎え入れる。
《周囲に不測の生体反応なし。余計な邪魔は入らない》
「よし、出るぞ。黄泉川、前島、高木」裏口方面。
「西隅、深海。遠野藤巻石間は私に続け」表方面の押さえ、氷室自身は運搬トラックを押さえに当たる。
ワーディングと同時、氷室の領域展開。
――即座に違和感。
『西隅、深海、変身しろ!』
全員倒れ込むはずの“荷物”に数人の無反応者。そして運転手、神父もまた。
即座に頭を打ち抜く氷室、遠野・藤巻が前に出る。
広がる強力な因子による統括。そして判明――次々と教会内部で変身の咆哮。
全員がバイサズ、しかも――。
「何だこいつら、揃いも揃って同じ得体の知れねぇ装備してやがる!」
生体鎧に身を包み、防御と威力を積み増し。
氷室の補助を受けた前島の一撃を耐えきる。
三箇所で戦闘が勃発。現場は騒乱の様相を呈する。
励起したレネゲイドが共振し、石間は衝動と共に、夢で垣間見た培養液の怪物の姿を思い出す。
目の前に立つ怪物たちの姿は、それに酷似している。
石間、一足先に衝動判定。失敗する場合、氷室が妖精の手でフォローする。


シーン13 不可能性、それでも(PC1)

『石間、一般人の保護に回れ!』
「はい!」
始めから捨て荷。被害を顧みず戦うジャームの攻撃の余波で教会は次々と破壊され、
飛び散る破片、落下する瓦礫、倒壊する柱が倒れ込んだ人々を呑み込もうとする。
走る。思い通りに駆けられない。振動し、破壊された足場。
伝播する衝撃。攻撃が自分の身体を掠める。
自分だけではない、目の前の人たちにもいつ命中するか分からない。
失われようとする命。自分の死が思い出される。
「助からない命なんて幾らでもある」。訓練中、西隅に諭された言葉。
全てを救うことを諦めてこそ、助け上げられる命もあるのだと。
それすら失ってしまう訳には決していかないのだと。
残酷な――しかし当事者として何度も己自身に言い聞かせてきたのであろう言葉。
でも、それでも。
「!」
あと少し、体勢を崩して転ぼうとする瞬間。
視界の端で煌めいた、倒れた少女の手から転がり出でているロザリオ。
渾身の力で転倒しながら飛ぶ。
引っ掴み、何百回と繰り返してきた練習の通りに胸に叩き付ける。
成功確率は五分。
涼風――コインは表を向いた。
「変身!」
反応速度と膂力に秀でるハヌマーン/キュマイラの本領発揮。
降り注ぐ瓦礫の雨を全て蹴り砕き、倒れ込む柱を受け止める。
「どぉぉぉ……りゃあ!」
領域管制の効果で石間の動きは隊内全員に共有されている。
飛び退く黄泉川・前島をすり抜けて、投げつけた柱が敵バイサズの胴を直撃、吹き飛ばす。
『壁をぶち抜け、全員を運び出せ!』
「了解!」
領域が流し込んでくる情報の海に呑まれそうになりながら、攻撃を防ぎ、運び出す。
情報抹消の任を負っているらしき神父個体と石間は一対一、クライマックス戦闘が始まる。


シーン14 誰かの夢を守るために(PC1)

クライマックス戦闘、敵を全滅させればクリア。
拘束を目指す場合、HP0後に〈白兵〉〈射撃〉〈RC〉のいずれかで目標値15、石間のみ目標値9。
ただし成功しても、対象は鎧により心臓が握りつぶされ、死亡する。
始めから情報抹消のために配置されていたことがより確かに判るのみである。


シーン15 戦い続けるために(PC2)

捕食シーン。
氷室は一人で捕食を終える。石間は西隅、ゆのに付き添われて一緒に。
「あなたのしたことは正しかった。……こうしなければならないことも含めて」
「私はそう思う。出来るだけのことを、あなたはした」
今はその行いの清算の時だ。……食べなければならない。
「こうする時だけは、私も、石間さんと同じですね。同じ、食べる人、です」
「朝、伺った質問をもう一度、今度は私の方から」
「恐い、ですか?石間さん」
「ああ。……すごく、恐い。自分のことが」もう一人の俺が、激しい食欲を感じていることが。
「私もです。変だと思われるかもしれませんが。元々、私は人間に奉仕するために作られたプログラムですから」
「それがその人間を食べるだなんて、ひどい矛盾です」
「でも、やっぱり朝の時と同じように、私は気持ちを伝えたいと思います」
「石間さんが、石間さんであり続けるために、恐くても、向き合って食べるしかないと私は思います」
「私も、そうします。そうして、私は私の存在価値を確かめるために、この先も皆さんと一緒に歩みます」
「石間さんともです。今私の目の前で迷っている、他ならない人間の石間さんともです。それはきっと、何か意味のある歩みのはずです」
石間、黙々と食べる。食べても、それでも自分を人間として遇し続けると言ってくれる仲間のことを意識し続けながら食べる。


シーン16 手がかりから先へ(PC2,3)

救命できた被害者からの聴取が警察とUGN合同で進む。
死亡したジャームの特異な生体装備から未知の技術の流用が確認されたほか、
本体より、“レインボウアビリティ”“ヴァイオレットエフェクト”、FHの開発した薬物が検出。
最低でも一定以上の技術力を持つセルの関与が確定。
それらと連携、または研究セルを抱える大規模セルがこの件に関わっている。
光長の勘、「黒」。
引き続き捜査を継続との由。
情報流出の経路チェック――今のところ成果無し。
リストを武器として先に進むよりない。
被害者の誘拐元である各国の警察庁、UGNと連携して調査する方針。
「石間。君がいたおかげで被害者を救出することが出来た。礼を言う」
「我々だけでは誰も救えなかった公算が高い。
 誇れとは言わない。
 だが、君が成し遂げたという、その事実だけは覚えていてくれ」


シーン17 走れ、走れ(PC1,4)

西隅、ゆの、前島らの監督のもと、引き続き訓練に励む石間。
変身の成功率も徐々に上がり、エフェクトの使用も安定し始めた。
「これで、しばらくは生身の訓練に集中出来るなァ……」
「変身前からエフェクトを少しでも使えるようになったら一人前ですよ……」
鬼教官の叱咤激励を受けつつ、石間はひたすら走りに走る。
自分が守ると決めた、誰かの日常を守るために。

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