桃色の身体が、前のめりに崩れ落ちた。がしゃりと音を立て、水を弾いてうつ伏せに倒れ込む。眩い光がそれを包んだ。動く様子はない。
紅い鎧が突き出した左手を、氷で出来た盾を下ろす。右手に持つ剣はボロボロで、もはやナイフ程の長さしか残っていなかった。
光が消える頃に、鎧も、雨と共に溶けて消えた。
立っていたのは、十代後半と思しき少女。倒れていたのは、同年代の青年だった。
聞こえるのは、降りしきる雨の音だけ。
青年の指がぴくりと動いた。砲台のように身を起こして、そして自分を支える手を見てわなわなと震えた。自らの身体を両手で抱いた。
「そ……」
「見ないでっ!」
少女が何かを言いかけた途端、青年が叫んだ。
「和葉見ないで……『僕』を見ないでちょうだい……。君には、『私』しか見ないで欲しいのに……!」
俯いた顔は見えない。頬を伝う水も、それが何なのかは分からない。
少女が青年に向かって歩き出した。ぱしゃり、ぱしゃりと音が近づく。青年は動かない。
「どんな姿でも、蒼空は蒼空だよ」
青年の隣に少女が座る。そしておもむろに青年の腕を掴んだかと思うと、その身体から引き離し、噛んだ。
「んっ……」
青年はぴくりと震える。呼吸が荒くなる。噛まれていない方の手で、自分の体を支える。
少女が口を離す。その腕には2つの小さな穴が空いていたが、血は流れていなかった。
「ほら、おいしい」
少女は、にこりと笑ってそう言った。犬歯が鋭く尖っていた。